過去のブログより転記:3.茶碗

今日は、付き合い始めて間もない彼女の家に招かれ、食事をごちそうになる日だ。

容姿はまあまあ、性格は穏やか、経済的に余りある様子はないが、おおよそに関して中を満たしている。

人生の大きな決断の一つの、さらに二回目ともなれば、慎重にもなる。



ベルを鳴らすと、声がするより前に、ドアが開いた。

笑顔が迎えてくれる。こちらも、笑顔で答える。



いそいそと支度をする彼女を横目に、テーブルの上に準備された食器類が目に入る。

「!?」

そこに二つ並んだ茶碗は、どう低く見積もっても、夫婦茶碗だろう。それに・・・


顔色が変わったのが明らかだったのか、彼女が慌てたように近寄る。

「別に、今日のために準備したとかじゃないの。

 前にね、友達にお祝い事があった時に、いいご縁がありますようにって、贈ってくれたの。

 嬉しいけど、気が利くのか、利かないのか・・・ねぇ?」

うっすらと頬を紅潮させて、いつになく早口だ。



でも、青ざめたのは、そのせいじゃない。



もう、何年前になったか。

妻だった女が、私の元を後にした時のことだ。

そいつはご丁寧に、夫婦茶碗の片方を、置いて行った。

「新しいものを準備するまで、必要でしょ。」

そんな気遣いが、また癇に障った。

残された茶碗は、今も自宅にある。

・・・


そして今目の前に、同じ柄の、二つ並んだ、夫婦茶碗がある。

私はしばらく、身じろぎせず、それを見つめていた。



彼女は不思議そうに、しかし幸せそうに、その様子を眺めていた。