自己否定の深海から浮かび上がる

 先日、友人から「存在不安」という言葉を耳にしました。大まかに表現しますと、己の存在が肯定されている実感を持てない、それ故に常に他者に承認を求め続ける心理状態を指します。

 その時は興味深いなあ、程度に思っていましたが、面白いことを発見しました。

 

 先月末から、趣味で楽器弾きを始めました。講師の勧めで、週末にカラオケボックスで練習をしています。もちろん、まだうまく弾けません。つまづきますし、テンポはめちゃくちゃだし、音色もひどいものです。

 それでも繰り返し練習していると、「○○さん、やめて」「○○さん、うるさい」「ほら、迷惑だって言ってるよ」と、練習を止めさせようとする心の声が聞こえてくるように思えたのです。

 

 まさに、私の中にも『自己否定』が潜んでいたのでした。

 

 実は幼いころ、親戚のお姉さんからお古のオルガンを譲り受け、独りで練習をしていたことがあったのです。

 私の生まれの家は裕福ではありませんでしたから、教室に通うことなんて望んでも叶いませんでした。指の運び方も分からないのに、クリスマスにジングルベルを弾きたくて、一生懸命に練習していました。

 そして、幾つの時だったか……家族の前で披露したのでした。

 

 その時はよかったのです。特に何事もなくクリスマスの日は終わりました。

 二十年も経ったある日、母から苦情を聞かされました。「下手くそだったねー」と。

 

 気付いたのはごく最近のことなのですが、思い出してみると、私は母から褒められた記憶がほとんどありません。小さいころから勉強だけはできる子で、先生たちから褒められていたので、かえって褒める必要を感じなかったのかもしれません。けれども、私の中にはしっかりと「自分は褒められるところのない、つまらない存在だ」という意識が刻まれていたようです。