過去のブログより転記:2.割れる

一人の部屋。まだ日は高くなっていない。

チャイムが鳴り響いた。

「はぁい。」

「宅急便です。」

「今開けます。」



(誰から・・・?)

いぶかしげに、ドアを開ける。

「サインをお願いします。」

配達員はてきぱきと荷物を手渡し、紙とペンをよこした。

サインを終えると、部屋はまた静寂に包まれた。



差出人は、ごく近しい友人と、その伴侶の連名だった。

開けると、メッセージカードが添付されていた。

「大切な友達へ。

 先日は、気の利いた贈り物を、ありがとう。

 だんなも、すごく喜んでたよ!

 これから二人、お互いの手を取って、歩んで行きます。どうか、見守ってやってください。


 これは、心から大切に思っている友達と、まだ見えないそのお相手との未来に向けて、用意したものです。

 良いご縁がありますように。(ハート)

 友より」



・・・

休日だが、思いがけない早起きだったので、少し手のかかる料理をしてみることにした。

時間のない普段は、細かく切って炒めものにするところだが、今日は大雑把に刃を入れて、煮込んでみる。

その間に読む、小説のページを繰る手がはかどる。



ふんだんに時間を注ぎ込めたからか、なにやら美味しそうな匂いが辺りに立ち込めている。

良い頃合いに正午を越したので、食事にすることにした。

茶碗を下ごしらえに使っていたことを思い出して、洗う。



女は、一人暮らしを始める時、その茶碗を同伴した。

母は、さみしい、と言ったが、構わず持ってきた。

その代り次に家に帰った時、新しい茶碗を用意した。落ち着いた色の、渋めのデザインの茶碗を。

家に帰ると、その茶碗を使う自分に、社会人としての、誇らしい気持ちを思い出した。

持ち出した茶碗を使う時は、賑やかな家の中にいる時間を思い出した。


茶碗を洗いながら、贈り物のこと、差出人の友のこと、その伴侶のことが、流れるように思いだされ・・・。



ガチャン。



(あ・・・。)

茶碗は、不思議な程、真っ二つに割れていた。

(どうしよう・・・)



先ほどメッセージを読んだきり、戸棚の奥にしまった箱を取り出した。

箱の中には、茶碗が二つ、仲良く納まっている。



女は深く息を吐いた。



しばらくして、その片方を手に取った。そうして先ほどの続きを、また始めた。

・・・料理は、悪くない味だった。